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日々是好日

目標の立て方とセレンディピティ

【3学期修了式講話】

 今日は3年ぶりに、体育館で行う修了式です。3年生が卒業したあとの体育館は、少し寂しさを感じがしますが、4月には新入生が入学してきます。入学式には皆さんも参加していただき、共に新入生を歓迎しましょう。

 今日は次年度に向けて「目標の立て方とセレンディピティ」という話をします。

 皆さんは、自分の将来の目標をどのようにに立てているのでしょうか。WBCで日本の優勝に貢献した大谷翔平選手の目標の立て方について、興味深い記事があったので紹介します。大谷選手は目標達成のために取り組むべきことを、マンダラチャートのようなものを使って、高校生時代に何枚も書いたそうです。マンダラチャートとは9×9の合計81個のマス目があるシートを使います。まず中心にあるマスに自分が達成したい「大きな目標」を記入する。そのマスを取り囲む8つのブロックには、その目標達成に必要な要素を埋めるもので、ビジネスの世界でも使われることがあります。

 大谷選手が、高校1年生のときに書いた81マスの「目標達成シート」では、多くの高校球児が目標として甲子園出場などと書くところを、もっと先の目標として、プロ野球球団からの一位指名と高い目標を書いています。 目標の周りには「体づくり、コントロール、切れ、スピード160Km、変化球、メンタル、人間性、運」と書いています。野球選手として向上するための要素が並ぶのは予想がつきますが「運」という言葉を必要な要素として書いていることを不思議に思いました。さらに「運」を囲む8個のマスには「本を読む」「あいさつ」「ゴミ拾い」「道具を大切に使う」「審判さんへの態度」「部屋掃除」「応援される人間になる」「プラス思考」と記入されています。つまり、「運というものは、偶然与えられるものではなく、自らの行動で呼び込むもの」ととらえているのです。

 私はこの記事を読んだときに、筑波大学名誉教授 白川秀樹先生がノーベル化学賞を受賞したときに話題となった「セレンディピティ」という言葉を連想しました。この言葉の由来は、ペルシャのおとぎ話で「セレンディップの3人の王子」というのがあり、主人公が初めは求めていなかったものを、偶然や賢明さによって価値のあるものを見つけ出すストーリーです。このことから、ふとした偶然をきっかけに幸運をつかみ取ることを「セレンディピティ」という言葉で表現するようになったそうです。

 白川教授の研究は「導電性高分子の発見と開発」つまり、電気を通すプラスチックの発見です。もし、これが発見されていなければ、皆さんが使うスマホやiPadのタッチパネル、さらにリチウムイオン電池などの実用化がなかったといわれており、世界中の人々の生活を大きく変える発見をしました。なぜこの発見がセレンディピティと言われるかというと、あるとき、白川教授の研究室にいる留学生が触媒の量を間違えて1000倍も加えてしまいました。実験としては予定外だったのですが、その失敗した生成物をこれは何か面白そうだなと思って研究したことによって、この大きな発見につながったというエピソードがあるからです。

 同じようなことを多くの科学者たちが言っていて、アメリカの物理学者、電磁誘導を発見したジョセフ・ヘンリーも「偉大な発見の種は、いつでも私たちの周りを漂っている、しかしそれが根を下ろすのは、それを待ち構えている心にだけである」との言葉を残しています。

 いま、皆さんが取り組むことはなにか。それはチャンスがいつ訪れてもいいように、日頃から準備を怠らないことではないでしょうか。準備とは、勉強はもちろん、学校行事や部活動、日頃の生活をきちんとする、身の回りを整える、あいさつをする、興味あることはとことんやってみるということです。

 これらは本校の「3ばる」をしっかりやっていれば、自然に身につく力です。 熊女には皆さんの可能性を広げるチャンスがたくさんあります。新年度に向けて目標をしっかり立て、運も味方につけることができる高校生活を送ってくれることを期待しています。

卒業証書授与式 式辞

令和4年度卒業式 校長式辞

 桜の芽も色づき、校庭に吹く風に春の柔らかさを感じる、今日のよき日、御来賓の皆様、保護者の皆様に御出席いただき「令和4年度第75回卒業証書授与式」を挙行できますことは、卒業生はもとより、私たち教職員にとりましてもこの上ない喜びでございます。これまで支えていただいた皆様に心より感謝申し上げます。
 
ただいま、卒業証書を授与した307名の卒業生の皆さん、御卒業おめでとうございます。

 皆さんの高校生活のスタートは、新型コロナウイルス感染の拡大により、高校に入学はしたものの一斉休校により学校に通学できたのは1学期の途中からでした。学校行事や部活動の大会も中止となり、皆さんが思い描いていた高校生活ができずに、不完全燃焼のまま卒業を迎えたと感じている人もいることでしょう。

 しかし、この時代だからこそ誰も経験しなかった経験を重ねたことも事実です。
 一斉休校が始まったとき、リモート授業は対面授業を補完する目的で行われました。しかし、今では積極的にリモートの利点を生かした授業が当たり前のように行われるようになりました。
 これからの時代は、Society 5.0と呼ばれる超スマート社会です。皆さんは、AIやロボットの普及により社会基盤が変わろうとしている時代の最先端にいるのです。
 ChatGPTなどAIがあたかも人間のようにふるまい会話ができる時代、さらにシンギュラリティといって、AIが知能を持ち人間を超える分岐点が近いという話さえあります。
しかし、AIがいくら人間に近い会話をしていても、過去の膨大なビックデータから次に答える言葉の確率が高いものを繋げているというプログラムにすぎません。膨大なデータを扱う能力はAIが優れますが、深く考察し新しい未来を創造することは人間にしかできないことです。

 さて、世界を見渡すと、ロシアとウクライナの戦争、コロナなど新しい感染症の拡大や明日で発生から12年目となる東日本大震災などの自然災害など、絶えることのない不安が続き、行き先不透明な時代です。

 平和で安心した社会に皆さんを送り出せなかったことは、これまでの社会を作ってきた私たちの世代の責任であり、一社会人として悔やまれてなりませんが、先がわからない未来だからこそ、大いなる可能性も秘めていると考えてはどうでしょうか。

 世界では持続的な開発が謳われ、地球を破壊から守るための国際協約がいくつもできました。地球の資源は有限であり、人間が発展する道には限界があることが共通理念となりました。日本もパリ協定で謳われたSDGsを基に社会全体で17の目標について取り組みを実施しています。これからの社会には、地球規模で生物多様性や人間社会を包摂的にとらえる思考方法が不可欠になります。

 このような時代に本校を卒業する皆さんは、多くの先輩たちと同じように「さんばる」の精神で何事にも全力で取り組んできました。その前向きに挑戦する姿勢はこれからの時代においてきわめて貴重な財産になるでしょう。熊女には何事にもあきらめずに仲間と共に取り組む伝統があります。まだ誰もやったことのない未知の境地を切り開くことこそが、熊女の誇るべきチャレンジ精神です。

 アメリカのアル・ゴア元副大統領がノーベル平和賞受賞式典の演説で引用したアフリカのブルキナファソのことわざに
  If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.
  (早く行きたければひとりで行け、遠くまで行きたければ、皆で進め) というものがあります。

 時には一人で突っ走るのもいいでしょう、ただし、大きな目標を掲げそれを成し遂げるためには、一緒に走る仲間が必要になります。そんなときに、熊女で仲間とともに頑張った経験が必ず役に立つはずです。
 
 先日JAXAの宇宙飛行士試験の結果が発表され2名の宇宙飛行士が誕生しました。一人は女性、そしてもう一人は46歳の男性です。46歳の男性、諏訪 理(すわまこと)さんは最年長の合格者で、いくつになっても夢をあきらめないことの大切さを教えてくれました。

 これから皆さんの進む道はさまざまに分かれていきます。しかし、将来どこかで再び交差することがあるはずです。そのとき、熊女の卒業生として誇れる出会いをしていただけることを私は切に願っております。

 結びに、保護者の皆様、お子様の御卒業、心からお祝い申し上げます。皆様にはPTA会員として、本校の教育活動に温かい御理解とお力添えをいただきました。本校教職員を代表して厚く御礼申し上げます。

 卒業生の皆さんの御健勝と御活躍を心からお祈り申し上げ、式辞といたします。

                    令和五年三月十日
                    埼玉県立熊谷女子高等学校長  佐藤智明

共生社会の創り手に

【3学期校長講話】

 あけましておめでとうございます。今日から3学期が始まります。今朝、東の空にまるく虹がかかっていたのを見た人はいますか。始業式の朝に、何かいいことが起こりそうな気持になりました。

 3年生は、大学入学共通テストまであと1週間、まずは体調を整え、これまで積み重ねてきた実力を発揮することを期待しています。熊女の制服を着るのもあと約15日、3年だけでなく全校生徒の皆さんも、一日一日を大切に過ごしてください。

 さて、2学期の終業式で 国際協力の話から、国と国との信頼関係も、人と人との信頼関係と同じであり、相手のことを思いやりながらコミュニケーションをすることが大切だという話をしました。

 今日は 共生社会について話をします。
昨年のテレビドラマで、「Silent」というのを見ていた人はいますか。目黒連さん、川口春奈さんなどが出演していて、主人公の耳が聞こえなくなる先天性の病気にかかることからストーリーが展開していきます。普段あまりテレビを見ないのですが、私が興味を持ったのは、この難聴という障害について、テレビではどう表現しているのか気になりました。以前、特別支援学校に勤務した経験があり、障害のある方から見るとまだまだ日本社会は多くの偏見があり、障害者に優しい社会ではないと感じていました。テレビ番組で間違った印象が広がることを心配しましたが、作家が元看護師さんということもあり、とても丁寧に描かれていて安心しました。

 このドラマでよかったと思うことは、主人公をとりまく人達がそれぞれ違うアプローチで相手を思いやるコミュニケーションをしていたこと。聾者とのコミュニケーションというと手話がまず思い浮かぶ人が多いと思います。しかし、筆談やスマホを使うコミュニケーションもあります。それぞれが相手を思いやりながら違う手段でコミュニケーションをとっていたことが印象的です。

 語学でも同じですが、英検1級を取得しているからといってコミュニケーションが取れるわけではない、大切なのは話すべき内容を持つこと、それには相手のことに興味をもって、相手のことを考えた言葉のキャッチボールができることが大切です。

 ところで、聴力に障害がある人のことを「聾者」呼びますが、反対語は何かわかりますか。
テスト問題の回答ならば「健常者」と答えると思いますが、私は少し違和感があります。

 ドラマでは、聴力がある人を「健常者」ではなく「聴者」という言葉を使っていました。聞こえない「聾者」に対して、聞こえる人は「聴者」。単に聴覚能力の有無を表す言葉です。つまり、聞こえる人を「健常」とか「健聴」のように、わざわざその状況を「健全である(裏返せば、聞こえないことが健全ではない)」と表現する必要はないと思うのです。

 人間は誰もが球体のように平均的にバランスが取れているわけではありません。誰もいびつに得意なことや不得意なことがある、それこそが健全な状態です。もし、周囲に苦手なことで困っている人がいて、自分ができることがあれば一緒に取り組めばいい。そうすれば、自分が困っているときもきっと手を差し述べてくれる人が現れるでしょう。一人ではできないことも、協力すればきっとできる。そんな人間関係を作ってください。

 一人一人が互恵的な人間関係を作ることが、未来の共生社会の実現に繋がっており、皆さんにはそうした社会の創り手になってくれることを期待します。

国際協力から考えるコミュニケーション

【2学期終業式 校長講話】

 今日は国際協力というテーマから話をします。
 今年度、国際協力機構(JICA)と埼玉県教育委員会の「高校生の異文化理解フォーラム」という事業で、本校生が南アフリカの高校生とオンラインで交流し、その様子が新聞にも掲載されました。
 実は、日本とアフリカは遠く離れていても、とても関係の深い地域です。皆さんはアフリカ開発会議を知っていますか。30年前の1993年、世界におけるアフリカの重要性をいち早く認識した日本が主導し、東京で初めて開催され、その後3年ごとに開催しています。
 アフリカは、現在約14億の人口から2050年には24億人にまで増えると予想され、世界経済の「最後のフロンティア」と呼ばれており、世界各国が注目しています。そのため、各国がアフリカに経済援助などのアプローチをしていますが、日本のアプローチは他の国とは少し異なる独自性があり、次の3つの特徴があります。
 一つには、日本は一貫して、相手国の自発性、自助努力を重視してきたということです。自身の考えや技術の押し付けではなく、その国の状況に合うものを一緒につくり上げていく。いわゆる“オーナーシップ”の尊重です。例えば空港や港を作るときに、無理に日本洋式の建物にするなど、現地の文化を壊すようなものは作りません。
  2つ目が、人と人とのつながりです。相手との信頼関係なしには、国際協力はもちろん、何事も成り立ちません。顔の見える国際協力ともいわれています。日本人ならではのきめ細やかさで、根気強く人づくりに取り組んできた実績は、日本にとっても貴重な財産となっています。研修生として日本にやってくる外国の方は、このような日本人と働きたいと思って来日してくれています。
3つ目は、どのような課題があったとしても、最終的に目指すのは、その国の経済発展であるべきという姿勢です。これを達成するために、インフラ整備から人材育成まで、多様なアプローチを相手国と協働で実践しています。

 私は海外協力隊として1993年から2年間、バヌアツ共和国で学校つくりに携わりました。また、2015年からブラジルのファベーラと呼ばれる生活困難地域の子どもたちへの教育支援にも関わり、JICAの相手の立場に立った支援の在り方を肌で感じてきました。
 日本のODAの実施機関である国際協力機構(JICA)のCは、Cooperation「協力」です。JICAでは援助(AID)という言葉はあまり使いません。途上国と同じ目線で「協力」していくという姿勢を表しています。上から目線で「援助」してあげるという姿勢では信頼関係は生まれません。現地の人と共に汗を流しながら必要な技術を伝え、人を育て、現地の人々の自立を支援することを基本としています。例えば、食料に困っている国に食料を送るだけでなく、人を派遣してともに汗をかきながら野菜の作り方・魚の取り方を伝えるような協力です。このような支援を行っている国は他になく、日本が多くの途上国から信頼されている理由の一つです。

 JICAではありませんが、3年前の12月、アフガニスタンで銃撃により亡くなった、医師の中村哲さんも同じような視点で活動し現地の方々から信頼を得ていたのだと思います。彼は「アフガニスタンにいると『軍事力があれば我が身を守れる』というのが迷信だと分かる。敵を作らず、平和な信頼関係を築くことが一番の安全保障だと肌身に感じる。」と生前語っています。
 一方、ウクライナで起きている戦争はまさにその対極にありますが、中村哲さんのようなマインドをたくさんの人が共有することが世界平和にとって大切であり、一刻も早く終息することを願わずにいられません。

 皆さんは将来、海外で仕事をしたり、日本にいる外国人の方と働くなど、世界を意識する機会があると思います。そのとき、日本の途上国支援の理念について思い出してほしいのです。
 国と国との信頼関係も、人と人との信頼関係も同じです。相手の目線に立って、相手のことを考えた行動で相互に信頼関係を作ってください。

 先日の芸術鑑賞会で林家たい平さんが、「高校生時代にいろいろな言葉の変化球が投げられるようになってほしい。」と言っていました。日本語の持つ多様な表現を身につけて、相手を思いやりながらも自分の伝えるべきことをしっかりと伝えることができるようなコミュニケーション力を身につけてほしいと思います。

 年末年始はいろいろな人と出会う機会もあるでしょう。相手を思いやりながら対話をし、コミュニケーションを磨く機会としてください。3学期元気にお会いしましょう。

2学期も、まっすぐにしなやかに!

【2学期始業式校長講話】

 1学期の最後はコロナの感染拡大による学校閉鎖などあわただしい学期末でした。感染や濃厚接触者のため、終業式は欠席となった生徒もいます。幸いなことに重症化した生徒はいないと聞いていおり、みな元気に新学期を迎えていることと思います。2学期は鈴懸祭体育の部、2年生の修学旅行などの学校行事もあります。感染者数はやや下向きになっているとはいえ、学校が始まり人の動きが活性化すれば再び拡大の可能性が高まります。予防には十分注意しましょう。
 さて、皆さんは今年の夏をどのように振り返っていますか。夏季補習、部活動など充実した生活を送ることができていたでしょうか。夏休み後半に実施した体育祭応援合戦の練習を何度か見学しました。3年ぶりに実施となる応援練習で3年生も苦労したと思いますが、後半にはいい形になってきたので、本番が楽しみです。学年を超えてこのような取り組みができるのは、熊女でしか味わえない貴重な体験です。ぜひ、思いっきり楽しんでください。

 体育祭の家庭通知を本日配布しますが、発信者名が校長と体育委員長となっています。生徒が主体となって活動する熊女ならではの形です。保護者の方には、体育委員長からの通知と言って渡してください。

 この後、壮行会もありますが、夏季休暇中の大会などにおいても熊女生は大いに活躍してくれました。文化部、運動部ともに素晴らしい成果を上げており、皆さんを誇らしく思います。

 お茶の水女子大学の研究交流会などに参加した生徒もいます。熊女には君たちの可能性を広げるチャンスがたくさんありますが、それを、つかむかどうかは君たち次第、何事にも積極的にチャレンジすることを期待しています。

 一方、心配な事件もありました。戸田市に住む女子中学生が見ず知らずの親子を刃物で襲った事件です。どのような理由があったにせよ、他人の命も自分の命も殺める理由にはなりません。また、この事件のことを他人事と思ってはならないでしょう。どんなに強い人でも、耐え難いことに遭遇し、心が折れて、自暴自棄になってしまうこともありえます。そんなときは、誰でもいいから話をしてみる、相談してください。もし、近くにいなければ電話や匿名で相談することもできます。また、誰にも話せないなら、自分自身に手紙を書くことで気持ちを整理するという方法もあります。とにかく、生きていれば解決する方法は必ず見つかります。自分の命も他人の命もかけがえのない宝です。どうか、このことを心にとめておいてください。

 新たに着任したALTアナさんの故郷、ジャマイカにちなんで、ボブ・マーリーの言葉を紹介します。
 Love the life you live.  Live the life you love.    Bob Marley
 (自分の生きる人生を愛せ。自分の愛する人生を生きろ。)

 皆さんが学業・部活・学校行事に頑張っているのは、将来、自分の愛する人生を生きるためです。「まっすぐにしなやかに」2学期も頑張りましょう。