校長日誌

No.30  6月2日(火)「余韻」

 とうとう電車の中で「木挽町のあだ討ち(永井紗耶子著 新潮社)」を読み終えてしまいました。第169回直木賞と第36回山本周五郎賞を受賞したこの作品は2月公開の映画にもなり、本屋に行くたびに気になっていました。おそらく熊女生が好んで読む本ではないだろうから、この校長日誌のネタにはならないと思って買うのは後回しにしていたものでした。ちなみに、スマホで調べると映画の宣伝の動画が見られました。イメージするキャストがそろっていたので映画も見たくなりました。

 著者の永井氏は歌舞伎に関する造詣が深く、このことがこの物語の根幹を支えています。主人公が父を殺した者を仇討ちするために江戸に出て、行く当てもなく芝居小屋で世話をしてもらうことになります。芝居には役者以外にさまざまな仕事があり、その描写がとても詳しく、主人公を支える仲間の生い立ちと絡めて物語は進行していきました。また、歌舞伎の演目や役者、台詞なども詳しくて物語に深みを与えていました。伏線を最後に回収するプロットではなく、生き生きとした台本調で描写された登場人物たちの個々の話が全体を少しずつ作り上げ、最終章で主人公の独白のような形で全てが明らかになる見事な展開でした。

 タイトルの「木挽町のあだ討ち」がなぜ「仇討ち」と漢字ではなく平仮名なのか、それが落ちとしての結末でしたが、あれほど早く読み終えたいと先を急いで読んでいたのに、最終章まで読み進めると終わってしまうのが何だか寂しくてずっと先延ばしにしていました。読み終わった時にはそっと本を閉じ、目をつぶりました。

 余韻というのは大切で、読み終えた後にしばし目を閉じてこみ上げてくる感情を整理しながら、主人公の思いを振り返ります。この上手く言葉にできない感情を味わう時間が読書には大切だと思います。余韻に浸る時間を味わえる生活は実に贅沢です。熊女生の皆さんも今しか読めない本があります。是非、勉強の合間に本を読んでください。余韻に浸る時間はスマホを見ている時間よりもはるかに貴重ですよ。