卒業証書授与式 式辞
令和4年度卒業式 校長式辞
桜の芽も色づき、校庭に吹く風に春の柔らかさを感じる、今日のよき日、御来賓の皆様、保護者の皆様に御出席いただき「令和4年度第75回卒業証書授与式」を挙行できますことは、卒業生はもとより、私たち教職員にとりましてもこの上ない喜びでございます。これまで支えていただいた皆様に心より感謝申し上げます。
ただいま、卒業証書を授与した307名の卒業生の皆さん、御卒業おめでとうございます。
皆さんの高校生活のスタートは、新型コロナウイルス感染の拡大により、高校に入学はしたものの一斉休校により学校に通学できたのは1学期の途中からでした。学校行事や部活動の大会も中止となり、皆さんが思い描いていた高校生活ができずに、不完全燃焼のまま卒業を迎えたと感じている人もいることでしょう。
しかし、この時代だからこそ誰も経験しなかった経験を重ねたことも事実です。
一斉休校が始まったとき、リモート授業は対面授業を補完する目的で行われました。しかし、今では積極的にリモートの利点を生かした授業が当たり前のように行われるようになりました。
これからの時代は、Society 5.0と呼ばれる超スマート社会です。皆さんは、AIやロボットの普及により社会基盤が変わろうとしている時代の最先端にいるのです。
ChatGPTなどAIがあたかも人間のようにふるまい会話ができる時代、さらにシンギュラリティといって、AIが知能を持ち人間を超える分岐点が近いという話さえあります。
しかし、AIがいくら人間に近い会話をしていても、過去の膨大なビックデータから次に答える言葉の確率が高いものを繋げているというプログラムにすぎません。膨大なデータを扱う能力はAIが優れますが、深く考察し新しい未来を創造することは人間にしかできないことです。
さて、世界を見渡すと、ロシアとウクライナの戦争、コロナなど新しい感染症の拡大や明日で発生から12年目となる東日本大震災などの自然災害など、絶えることのない不安が続き、行き先不透明な時代です。
平和で安心した社会に皆さんを送り出せなかったことは、これまでの社会を作ってきた私たちの世代の責任であり、一社会人として悔やまれてなりませんが、先がわからない未来だからこそ、大いなる可能性も秘めていると考えてはどうでしょうか。
世界では持続的な開発が謳われ、地球を破壊から守るための国際協約がいくつもできました。地球の資源は有限であり、人間が発展する道には限界があることが共通理念となりました。日本もパリ協定で謳われたSDGsを基に社会全体で17の目標について取り組みを実施しています。これからの社会には、地球規模で生物多様性や人間社会を包摂的にとらえる思考方法が不可欠になります。
このような時代に本校を卒業する皆さんは、多くの先輩たちと同じように「さんばる」の精神で何事にも全力で取り組んできました。その前向きに挑戦する姿勢はこれからの時代においてきわめて貴重な財産になるでしょう。熊女には何事にもあきらめずに仲間と共に取り組む伝統があります。まだ誰もやったことのない未知の境地を切り開くことこそが、熊女の誇るべきチャレンジ精神です。
アメリカのアル・ゴア元副大統領がノーベル平和賞受賞式典の演説で引用したアフリカのブルキナファソのことわざに
If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.
(早く行きたければひとりで行け、遠くまで行きたければ、皆で進め) というものがあります。
時には一人で突っ走るのもいいでしょう、ただし、大きな目標を掲げそれを成し遂げるためには、一緒に走る仲間が必要になります。そんなときに、熊女で仲間とともに頑張った経験が必ず役に立つはずです。
先日JAXAの宇宙飛行士試験の結果が発表され2名の宇宙飛行士が誕生しました。一人は女性、そしてもう一人は46歳の男性です。46歳の男性、諏訪 理(すわまこと)さんは最年長の合格者で、いくつになっても夢をあきらめないことの大切さを教えてくれました。
これから皆さんの進む道はさまざまに分かれていきます。しかし、将来どこかで再び交差することがあるはずです。そのとき、熊女の卒業生として誇れる出会いをしていただけることを私は切に願っております。
結びに、保護者の皆様、お子様の御卒業、心からお祝い申し上げます。皆様にはPTA会員として、本校の教育活動に温かい御理解とお力添えをいただきました。本校教職員を代表して厚く御礼申し上げます。
卒業生の皆さんの御健勝と御活躍を心からお祈り申し上げ、式辞といたします。
令和五年三月十日
埼玉県立熊谷女子高等学校長 佐藤智明