2022年12月の記事一覧
国際協力から考えるコミュニケーション
【2学期終業式 校長講話】
今日は国際協力というテーマから話をします。
今年度、国際協力機構(JICA)と埼玉県教育委員会の「高校生の異文化理解フォーラム」という事業で、本校生が南アフリカの高校生とオンラインで交流し、その様子が新聞にも掲載されました。
実は、日本とアフリカは遠く離れていても、とても関係の深い地域です。皆さんはアフリカ開発会議を知っていますか。30年前の1993年、世界におけるアフリカの重要性をいち早く認識した日本が主導し、東京で初めて開催され、その後3年ごとに開催しています。
アフリカは、現在約14億の人口から2050年には24億人にまで増えると予想され、世界経済の「最後のフロンティア」と呼ばれており、世界各国が注目しています。そのため、各国がアフリカに経済援助などのアプローチをしていますが、日本のアプローチは他の国とは少し異なる独自性があり、次の3つの特徴があります。
一つには、日本は一貫して、相手国の自発性、自助努力を重視してきたということです。自身の考えや技術の押し付けではなく、その国の状況に合うものを一緒につくり上げていく。いわゆる“オーナーシップ”の尊重です。例えば空港や港を作るときに、無理に日本洋式の建物にするなど、現地の文化を壊すようなものは作りません。
2つ目が、人と人とのつながりです。相手との信頼関係なしには、国際協力はもちろん、何事も成り立ちません。顔の見える国際協力ともいわれています。日本人ならではのきめ細やかさで、根気強く人づくりに取り組んできた実績は、日本にとっても貴重な財産となっています。研修生として日本にやってくる外国の方は、このような日本人と働きたいと思って来日してくれています。
3つ目は、どのような課題があったとしても、最終的に目指すのは、その国の経済発展であるべきという姿勢です。これを達成するために、インフラ整備から人材育成まで、多様なアプローチを相手国と協働で実践しています。
私は海外協力隊として1993年から2年間、バヌアツ共和国で学校つくりに携わりました。また、2015年からブラジルのファベーラと呼ばれる生活困難地域の子どもたちへの教育支援にも関わり、JICAの相手の立場に立った支援の在り方を肌で感じてきました。
日本のODAの実施機関である国際協力機構(JICA)のCは、Cooperation「協力」です。JICAでは援助(AID)という言葉はあまり使いません。途上国と同じ目線で「協力」していくという姿勢を表しています。上から目線で「援助」してあげるという姿勢では信頼関係は生まれません。現地の人と共に汗を流しながら必要な技術を伝え、人を育て、現地の人々の自立を支援することを基本としています。例えば、食料に困っている国に食料を送るだけでなく、人を派遣してともに汗をかきながら野菜の作り方・魚の取り方を伝えるような協力です。このような支援を行っている国は他になく、日本が多くの途上国から信頼されている理由の一つです。
JICAではありませんが、3年前の12月、アフガニスタンで銃撃により亡くなった、医師の中村哲さんも同じような視点で活動し現地の方々から信頼を得ていたのだと思います。彼は「アフガニスタンにいると『軍事力があれば我が身を守れる』というのが迷信だと分かる。敵を作らず、平和な信頼関係を築くことが一番の安全保障だと肌身に感じる。」と生前語っています。
一方、ウクライナで起きている戦争はまさにその対極にありますが、中村哲さんのようなマインドをたくさんの人が共有することが世界平和にとって大切であり、一刻も早く終息することを願わずにいられません。
皆さんは将来、海外で仕事をしたり、日本にいる外国人の方と働くなど、世界を意識する機会があると思います。そのとき、日本の途上国支援の理念について思い出してほしいのです。
国と国との信頼関係も、人と人との信頼関係も同じです。相手の目線に立って、相手のことを考えた行動で相互に信頼関係を作ってください。
先日の芸術鑑賞会で林家たい平さんが、「高校生時代にいろいろな言葉の変化球が投げられるようになってほしい。」と言っていました。日本語の持つ多様な表現を身につけて、相手を思いやりながらも自分の伝えるべきことをしっかりと伝えることができるようなコミュニケーション力を身につけてほしいと思います。
年末年始はいろいろな人と出会う機会もあるでしょう。相手を思いやりながら対話をし、コミュニケーションを磨く機会としてください。3学期元気にお会いしましょう。