2023年3月の記事一覧
目標の立て方とセレンディピティ
【3学期修了式講話】
今日は3年ぶりに、体育館で行う修了式です。3年生が卒業したあとの体育館は、少し寂しさを感じがしますが、4月には新入生が入学してきます。入学式には皆さんも参加していただき、共に新入生を歓迎しましょう。
今日は次年度に向けて「目標の立て方とセレンディピティ」という話をします。
皆さんは、自分の将来の目標をどのようにに立てているのでしょうか。WBCで日本の優勝に貢献した大谷翔平選手の目標の立て方について、興味深い記事があったので紹介します。大谷選手は目標達成のために取り組むべきことを、マンダラチャートのようなものを使って、高校生時代に何枚も書いたそうです。マンダラチャートとは9×9の合計81個のマス目があるシートを使います。まず中心にあるマスに自分が達成したい「大きな目標」を記入する。そのマスを取り囲む8つのブロックには、その目標達成に必要な要素を埋めるもので、ビジネスの世界でも使われることがあります。
大谷選手が、高校1年生のときに書いた81マスの「目標達成シート」では、多くの高校球児が目標として甲子園出場などと書くところを、もっと先の目標として、プロ野球球団からの一位指名と高い目標を書いています。 目標の周りには「体づくり、コントロール、切れ、スピード160Km、変化球、メンタル、人間性、運」と書いています。野球選手として向上するための要素が並ぶのは予想がつきますが「運」という言葉を必要な要素として書いていることを不思議に思いました。さらに「運」を囲む8個のマスには「本を読む」「あいさつ」「ゴミ拾い」「道具を大切に使う」「審判さんへの態度」「部屋掃除」「応援される人間になる」「プラス思考」と記入されています。つまり、「運というものは、偶然与えられるものではなく、自らの行動で呼び込むもの」ととらえているのです。
私はこの記事を読んだときに、筑波大学名誉教授 白川秀樹先生がノーベル化学賞を受賞したときに話題となった「セレンディピティ」という言葉を連想しました。この言葉の由来は、ペルシャのおとぎ話で「セレンディップの3人の王子」というのがあり、主人公が初めは求めていなかったものを、偶然や賢明さによって価値のあるものを見つけ出すストーリーです。このことから、ふとした偶然をきっかけに幸運をつかみ取ることを「セレンディピティ」という言葉で表現するようになったそうです。
白川教授の研究は「導電性高分子の発見と開発」つまり、電気を通すプラスチックの発見です。もし、これが発見されていなければ、皆さんが使うスマホやiPadのタッチパネル、さらにリチウムイオン電池などの実用化がなかったといわれており、世界中の人々の生活を大きく変える発見をしました。なぜこの発見がセレンディピティと言われるかというと、あるとき、白川教授の研究室にいる留学生が触媒の量を間違えて1000倍も加えてしまいました。実験としては予定外だったのですが、その失敗した生成物をこれは何か面白そうだなと思って研究したことによって、この大きな発見につながったというエピソードがあるからです。
同じようなことを多くの科学者たちが言っていて、アメリカの物理学者、電磁誘導を発見したジョセフ・ヘンリーも「偉大な発見の種は、いつでも私たちの周りを漂っている、しかしそれが根を下ろすのは、それを待ち構えている心にだけである」との言葉を残しています。
いま、皆さんが取り組むことはなにか。それはチャンスがいつ訪れてもいいように、日頃から準備を怠らないことではないでしょうか。準備とは、勉強はもちろん、学校行事や部活動、日頃の生活をきちんとする、身の回りを整える、あいさつをする、興味あることはとことんやってみるということです。
これらは本校の「3ばる」をしっかりやっていれば、自然に身につく力です。 熊女には皆さんの可能性を広げるチャンスがたくさんあります。新年度に向けて目標をしっかり立て、運も味方につけることができる高校生活を送ってくれることを期待しています。
卒業証書授与式 式辞
令和4年度卒業式 校長式辞
桜の芽も色づき、校庭に吹く風に春の柔らかさを感じる、今日のよき日、御来賓の皆様、保護者の皆様に御出席いただき「令和4年度第75回卒業証書授与式」を挙行できますことは、卒業生はもとより、私たち教職員にとりましてもこの上ない喜びでございます。これまで支えていただいた皆様に心より感謝申し上げます。
ただいま、卒業証書を授与した307名の卒業生の皆さん、御卒業おめでとうございます。
皆さんの高校生活のスタートは、新型コロナウイルス感染の拡大により、高校に入学はしたものの一斉休校により学校に通学できたのは1学期の途中からでした。学校行事や部活動の大会も中止となり、皆さんが思い描いていた高校生活ができずに、不完全燃焼のまま卒業を迎えたと感じている人もいることでしょう。
しかし、この時代だからこそ誰も経験しなかった経験を重ねたことも事実です。
一斉休校が始まったとき、リモート授業は対面授業を補完する目的で行われました。しかし、今では積極的にリモートの利点を生かした授業が当たり前のように行われるようになりました。
これからの時代は、Society 5.0と呼ばれる超スマート社会です。皆さんは、AIやロボットの普及により社会基盤が変わろうとしている時代の最先端にいるのです。
ChatGPTなどAIがあたかも人間のようにふるまい会話ができる時代、さらにシンギュラリティといって、AIが知能を持ち人間を超える分岐点が近いという話さえあります。
しかし、AIがいくら人間に近い会話をしていても、過去の膨大なビックデータから次に答える言葉の確率が高いものを繋げているというプログラムにすぎません。膨大なデータを扱う能力はAIが優れますが、深く考察し新しい未来を創造することは人間にしかできないことです。
さて、世界を見渡すと、ロシアとウクライナの戦争、コロナなど新しい感染症の拡大や明日で発生から12年目となる東日本大震災などの自然災害など、絶えることのない不安が続き、行き先不透明な時代です。
平和で安心した社会に皆さんを送り出せなかったことは、これまでの社会を作ってきた私たちの世代の責任であり、一社会人として悔やまれてなりませんが、先がわからない未来だからこそ、大いなる可能性も秘めていると考えてはどうでしょうか。
世界では持続的な開発が謳われ、地球を破壊から守るための国際協約がいくつもできました。地球の資源は有限であり、人間が発展する道には限界があることが共通理念となりました。日本もパリ協定で謳われたSDGsを基に社会全体で17の目標について取り組みを実施しています。これからの社会には、地球規模で生物多様性や人間社会を包摂的にとらえる思考方法が不可欠になります。
このような時代に本校を卒業する皆さんは、多くの先輩たちと同じように「さんばる」の精神で何事にも全力で取り組んできました。その前向きに挑戦する姿勢はこれからの時代においてきわめて貴重な財産になるでしょう。熊女には何事にもあきらめずに仲間と共に取り組む伝統があります。まだ誰もやったことのない未知の境地を切り開くことこそが、熊女の誇るべきチャレンジ精神です。
アメリカのアル・ゴア元副大統領がノーベル平和賞受賞式典の演説で引用したアフリカのブルキナファソのことわざに
If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.
(早く行きたければひとりで行け、遠くまで行きたければ、皆で進め) というものがあります。
時には一人で突っ走るのもいいでしょう、ただし、大きな目標を掲げそれを成し遂げるためには、一緒に走る仲間が必要になります。そんなときに、熊女で仲間とともに頑張った経験が必ず役に立つはずです。
先日JAXAの宇宙飛行士試験の結果が発表され2名の宇宙飛行士が誕生しました。一人は女性、そしてもう一人は46歳の男性です。46歳の男性、諏訪 理(すわまこと)さんは最年長の合格者で、いくつになっても夢をあきらめないことの大切さを教えてくれました。
これから皆さんの進む道はさまざまに分かれていきます。しかし、将来どこかで再び交差することがあるはずです。そのとき、熊女の卒業生として誇れる出会いをしていただけることを私は切に願っております。
結びに、保護者の皆様、お子様の御卒業、心からお祝い申し上げます。皆様にはPTA会員として、本校の教育活動に温かい御理解とお力添えをいただきました。本校教職員を代表して厚く御礼申し上げます。
卒業生の皆さんの御健勝と御活躍を心からお祈り申し上げ、式辞といたします。
令和五年三月十日
埼玉県立熊谷女子高等学校長 佐藤智明